
「英語は楽しいなー!」
これは私が小学校6年性の時に感じた英語に対する第一印象です。
当時はまだ小学校では英語は必修科目になっていませんでしたが、ALT(外国人指導助手)による外国語活動の授業があり、英語を使ったゲームやスポーツなどをする楽しい時間だったのを覚えています。
しかしながら、中学校に入って必修科目として英語の授業を受け始めた途端に、英語は他の科目の授業と同じでただのつまらない時間になってしまったのです。
それはなぜだったのでしょうか?
その理由は明確に、日本の英語教育の問題点でもある典型的な教授法にありました。
そこでこの記事では、日本の英語教育の現状と今後について、英語の典型的な教授法である文法訳読法の概要説明とともに解説をします。
英語の教育に関心を持っていらっしゃる方はぜひご参考にして頂ければと思います。
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日本の英語教育の現状
まず初めに、皆さんは日本の英語教育についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?
実際には一般論として、日本の英語教育は「誤っている」「失敗」「時代遅れ」などと言われ、長年にわたって批判にさらされてきました。
近年では小学校での英語の必修化やオールイングリッシュの導入などにより教育改革が行われてきている印象ですが、逆に言えば長い教育の歴史の中で近年になってようやく改革が始まったというのが日本の英語教育の現状です。
それでは実際に日本の現場ではどのように英語の教育が行われているのか、皆さんがこれまで受けてきた学校での英語の授業を思い返してみて下さい。
以下のような流れで授業が展開されていませんでしたか?
<先生> 英語の教科書の本文を音読する or 教科書付属の本文リスニング用のCD音声を流す
↓
<生徒> 先生の音読 or CD音声を聞きながら本文を目で追って黙読する
↓
<先生> 本文を一文 or 一段落ずつ黒板に書き写す
↓
<生徒> 先生が黒板に書いたのと同じように本文をノートに書き写す
↓
<先生> 一文ずつ文の構造や働き、単語の意味などの文法説明を行い、最終的に全体を通して和訳をする
↓
<生徒> 先生の文法説明と和訳をノートに書き留める
↓
その後は次の文 or 段落へと進み、以後上記の流れが繰り返されて授業が展開されていく
実際に私自身が中学校と高校のあわせて6年間で受けてきた英語の授業は、上記のように先生が文法説明と和訳を繰り返し行い、生徒はひたすらそれを聞いてはノートに書き留めるという流れで行われていました。
このような授業の展開は日本では典型的であり、これこそが日本の英語教育が失敗や時代遅れと批判される要因となってきました。
文法訳読法とは?
日本の英語教育の現状として述べた上記のような授業展開で行われる教授法のことを文法訳読法(もしくは訳読教授法)(Grammar Translation Method)と言います。
文法訳読法は、文法の教育と訳読の訓練を重視した外国語の教授法であり、その学習する外国語の読解力を伸ばすということを目的としています。
文法訳読法の歴史は、中世ヨーロッパにおけるラテン語の教育が始まりです。
当時のヨーロッパではラテン語を日常的に話す人はいなかったものの、教養を身に付けるためにはラテン語で書かれた書物を読む必要があるとされていました。
そのため、ラテン語の書物の内容を自身の母語で理解するということが最大の目的となり、「聞く」「話す」よりも「読む」「書く」が優先されたラテン語の教育が行われるようになりました。
結果的にそれは文法規則や語形変化を暗記することや外国語の文章を全て母語に翻訳することを特徴とする文法訳読法の基礎となり、外国語の教授法として日本を含めて世界的に広がっていきました。

文法訳読法のメリット
英語教育における文法訳読法の最大のメリットは、学習者が英語と日本語の違いを理解しやすいという点にあります。
文法訳読法では、英語の文法と語彙の説明が行われたのち英語の文章が全て日本語へと和訳されるため、学習者は文法と語彙の知識を得た状態で英語と日本語を対比させることができ、それによって文の構造や意味の違いを一つずつ理解することができます。
これは英語のリーディングはもちろん、日本語を英語に書き起こすライティングのスキルアップにも大きく繋がります。
一方で指導者としては、文法の説明と和訳を中心に教育を行うという点で、教科書や参考書にある解説のように基本的な内容を繰り返して授業を展開するだけで良いとも言えます。
そういう意味では、指導者は高度な文法知識やネイティブレベルのスピーキングスキルなどが必要とされることはありません。
加えて、文法訳読法は個人はもちろんのこと大人数に向けて機械的に教育を行うことができるというのも大きなメリットであり、学校や学習塾などの大人数を対象とする教育の場では特に重宝されます。
文法訳読法のデメリット
文法訳読法のデメリットは、学習者のリスニングとスピーキングといったコミュニケーションスキルが向上しにくいという点です。
リーディングとライティングが中心となる文法訳読法では、学習者自身が実際に英語を用いてコミュニケーションを図るという機会はほとんどありません。
教科書の本文の音読やリスニング用のCD音声を聞くことはあっても、学習者にとってそれは受動的で一方的なものであり、実際の言葉のキャッチボールによるコミュニケーションではないためリスニングスピーキングのスキルは身に付きにくくなります。
またもう一つのデメリットとして、授業が単調になってしまうという点もあります。
これまで日本の多くの学校で行われてきたように、文法訳読法による英語の授業は生徒にとってはただ先生の説明を聞いているだけのメリハリのないつまらないものに感じられます。
こうした学習者が受け身の授業では、学習者は学びの意欲を削がれ、結果的には授業だけでなく英語自体への興味を失うことになるかもしれません。
今後の日本の英語教育
日本の英語教育は近年になり大きく改革が行われ始めています。
例えば、2020年度からは小学校3・4年生では外国語活動、5・6年生では英語がそれぞれ必修化となりました。
さらに、中学校では2017年、高等学校では2009年から基本的に授業を全て英語で行うオールイングリッシュの導入が始まりました。
これだけを見ても日本の英語教育が劇的に変わってきているという印象がありますよね。
また、近年注目を浴びているのが英語のイマージョン教育です。
「浸す」という意味の単語 “immersion” が語源となるイマージョン教育は、その名が示す通り英語にどっぷりと浸された環境の中で英語の習得を目的として行われる教育のことを指し、具体的には生徒は国語以外の科目(算数や理科、社会など)を日本語ではなく英語で学ぶことになります。
イマージョン教育の最大のメリットは、「英語を学ぶ」のではなく「英語で学ぶ」ことで英語力をより早い段階で、より自然に身に付けることができるという点です。
現在日本でイマージョン教育を導入しているのは一部の学校やインターナショナルスクールのみですが、今後広く普及することは十分に考えられますので、新たな英語教育の方法として知っておきましょう。
以上のように、日本の英語教育は今まさに変わり始めたところです。
今後も新しい教育方法を取り入れたり様々な制度を導入したりしながら発展し、英語教育全体としてさらにより良い方向へと進んでいくと私は思います。
まとめ
今回の記事では、日本の英語教育の現状と今後についての解説と、英語の典型的な教授法である文法訳読法の概要説明を行いました。
文法訳読法を中心としたこれまでの日本の英語教育は、学習者が受動的でリスニングとスピーキングのコミュニケーションスキルも向上しないとして、現状では批判の対象となってきました。
しかし近年になり、英語の小学校での必修化やオールイングリッシュの導入、あるいはイマージョン教育の普及によって大きく改革が行われ、今後に向けて新たな局面に入ったと言えます。
「日本人は英語が苦手」というイメージが先行する現状を打破し、「日本人は英語が上手」と世界中から言われるようになる日がそう遠くない未来に来るのを楽しみにしたいですね。