皆さんがこれまで中学校や高校で受けてきた英語の授業はどのようなものだったか思い返してみて下さい。
先生がまず教科書を一通り読み、その後黒板に文法説明や和訳を書き、生徒はそれをひたすらノートに書き写す。そして先生は再び教科書の文を読み始める・・・
これは日本では典型的な授業形式で、私自身も含めて多くの方がこのような授業を受けて来られたかと思います。
しかし実際には、こうした授業では生徒が受動的になるため教育としては適した方法ではないとしてしばしば批判に晒されてきました。
そこで、最近よく耳にするようになったのが「アクティブ・ラーニング(active learning)」という言葉です。
文字通りに直訳すると「活動的な学び」となるアクティブ・ラーニングは、教育業界をはじめ今大きな注目を浴びています。
この記事では、アクティブ・ラーニングについてその意味や目的について解説するとともに、実際の英語の授業で行われる事例もご紹介します。
アクティブ・ラーニングとは?
アクティブ・ラーニングとは、教員が学習者に対して一方的に講義を行う教育ではなく、学習者自身が主体的・能動的に学習に取り組む学習法です。
外国では以前から当たり前のように行われてきたアクティブ・ラーニングですが、日本で広く知られるようになったのはつい最近の2012年です。
この年、文部科学省における中央教育審議会答申の中で、初めてアクティブ・ラーニングという言葉が登場し、その内容についての言及がありました。
その中で、アクティブ・ラーニングは以下のように定義されています。
【アクティブ・ラーニング】
教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。
【出典】 用語集 – 文部科学省
また、アクティブ・ラーニングの意義や目的は以下のように述べられています。
生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。すなわち個々の学生の認知的、倫理的、社会的能力を引き出し、それを鍛えるディスカッションやディベートといった双方向の講義、演習、実験、実習や実技等を中心とした授業への転換によって、学生の主体的な学修を促す質の高い学士課程教育を進めることが求められる。学生は主体的な学修の体験を重ねてこそ、生涯学び続ける力を修得できるのである。
【出典】 平成24年8月28日 中央教育審議会 答申
アクティブ・ラーニングがどのようなものであるか、少しイメージを持つことができましたでしょうか?
日本の英語教育としてこれまで私たちが受けてきた学校の英語の授業では、先生が生徒に対して一方的に授業を展開をする形式であったため、生徒はどうしても受動的になっていました。
しかし、アクティブ・ラーニングの登場によって、生徒がディスカッションやディベートの中で自分の意見を発表したり、グループワークで様々な物事について調べて話し合ったりするような能動的な活動を行う機会が増えます。
そして、そうした能動的な活動を通じてこそ、主体的に考える力や社会的能力を養うことができるというのがアクティブ・ラーニングの基本的な考え方になります。
アクティブ・ラーニングの事例
アクティブ・ラーニングにはグループワークやディスカッションなど様々な学習方法がありますが、今回はその中の1つである「Think-Pair-Share」をご紹介します。
Think-Pair-Share は、与えられたある質問やテーマに対して、【①自分で考える → ②ペアになって意見交換をする → ③全体で意見を共有してより考えを深める】という一連のサイクルで学ぶ学習方法です。
例えば、先生から生徒に対して、「もしこのクラスに英語しか話せないアメリカ人の転校生が来たとしたら、皆さんはどのようにコミュニケーションを取りますか?」という質問が与えられたとします。
すると、生徒はその質問に対し、まず各自で自分なりに答えを考えます。
「自分の知っている簡単な英語で挨拶や自己紹介をする」
「一緒にスポーツやゲームをして遊ぶ」
「ジェスチャーや簡単な言葉をお互いに教え合ったりする」
など、思いつく限りの自分の意見をまとめます。
その後、生徒は2人組のペアになってそれぞれの意見を交換します。
ここで大切なポイントは、ペアの間で意見が異なる場合には、それぞれが自分の意見や考えの根拠を明確にして相手に伝えることと、最終的にはそれぞれの考えを1つにまとめてペアとしての意見を出すことです。
自分の意見を相手に伝えることで論理的に考える力を身につけることができ、また他者との意見交換を通じては自分の意見に説得力を持たせて主張することを学んだり、自分とは異なる考え方を尊重することの大切さを知ったりすることができます。
そして最後には、ペアでまとめた意見をクラス全体で共有します。
様々な意見や考えに同意あるいは反対したりと全員で討議を行い、先生からのフィードバックを受けることでより理解を深めていきます。
また、討議を行うことによって全体に向けて自分の意見を発表するトレーニングにもなり、回数を重ねれば人前で話すことに対して自信をつける事もできます。
以上が Think-Pair-Share の基本的な流れになります。
ちなみに、Think-Pair-Share はアクティブ・ラーニングの事例であり、英語で行うことに限定する必要はありません。
小学校であれば考える力や意見を述べる力を身に付けるために日本語で行うのが良いと思いますし、高校生や大学生であれば英語のみで行うことで積極的に英語を使う機会が得られて非常に良い英語のトレーニングになるかと思います。
教える側がそのあたりを適切に判断し、生徒の学習を促進させることが必要となります。
まとめ
今回はアクティブ・ラーニングについて解説しました。
アクティブ・ラーニングは日本ではまだ取り入れ始められたばかりの学習法であり、これからさらに発展させられるべきものです。
Think-Pair-Share に代表されるように、アクティブ・ラーニングの最大のメリットは学習者がペアワークや全体での討議・発表の中で自分の意見を発信して主体的に学ぶことができる点にあります。
そして、それが英語で行われるとなると、英語を使う機会が格段に増えるため英語力をさらに鍛えることができます。
こうした点で、アクティブ・ラーニングは教える側からの一方的な教育では得られないような学習の機会が学習者に与えられるため、非常に有効な学習法であると言えます。